お仕事お仕事
どうでもよいことをどうでもよいままに書こうとするのは気恥ずかしいことだ。ついついお化粧をほどこしてやりたくなり、いわでもの修飾やとってつけたようなエピソードで厚く塗ってしまう。何もない日であれば何もない日でよいのだ。何もない日を何もない日としてきっちり書き上げるのが、本来的な物書きの腕なのだから。
と、「おまえ昭和かぶれかよ」みたいな冒頭でしたが、ぼくの腕はせいぜい酒を咽喉へ流しこんだり、たばこに火をつけるくらいの働きで満足しているようなので、それはそれで幸福なことである。
最近、ひさびさに風俗の女の子としゃべるようになって懐かしくおもったのが、彼女たちは(比較的健全な風俗も、そうでない風俗でも)今昔問わず、なぜふたことめには客の職業を知りたがるのだろうか、というその一種独特の生態だ。
おとといくらい、朝の定食屋で自分なりにぼんやり考えていたら、いちおうの答えらしきものにたどりついた。一、単純に話の起点もしくは接ぎ穂として。わかりやすい。とてもわかりやすい。一、その客を見覚えるための認識の紐付けである。これまたわかりやすい。出身地や年齢なんか聞いたって、よっぽど同郷、同年でもないかぎり次回には忘れちゃうだろうし、その点職業ならまぎれがない。
誰だってそうだろうけれど「~さん」だけではなかなか覚えられないものだ。「~の~さん」は、普通、「~の友だちの~さん」とか「~のイトコの~さん」「~の後輩の~さん」のように関係性をメインに記憶することが多いかとおもうが、ふたりっきりの短距離走ではそうもいかない。なんだか妙に納得した。かくてぼくは後顧の憂いなく運ばれてきたミックスグリル定食を食べた。でもやっぱり味噌汁とサラダは食べきれなかった。
余談ながら、定番の「お仕事なにしてるんですか」「なんだとおもう?」というやりとりを経て「詩人」と一発で当ててきた猛者がいたことをご報告しておく。どう考えても「詩人」はノーヒント、ピンポイントで出てこないだろう。なんだ、きみは知り合いか。それとも、むしろきみも詩人なのか。
どうでもよいことをどうでもよいままに書いてしまった。
けれど、きょうはどうでもよいままに擱筆しようとおもう。
いいじゃん、「入江相政日記」だって、日常の中身はちがえど、テンション的にはこんなかんじだ。たぶん。