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キクチミョンサ的

「なれのはて」ということばがよく似合う、ちいさなぼくのプライドだよ

3月のライオン

日記を書くのはずいぶんとひさしぶりですね。長いことぼんやりしていた。とある締切まで3日を切り、先方はやきもきしているかもしれないけれど、まあ、なんとかするのがわたしですよ、とえらそうに言ってみる。それはさておき。

 

レイトショーで「3月のライオン」前編を観てきた。

 

 

以下、部分的なネタバレを含むため、このあと鑑賞予定の方はご注意ください。

なおあくまで前編としての感想です。当たり前のことながら、この一作をもって「3月のライオン」という映画(前後編)を語れるわけがない。

 

 

ひとことでいうと、重たかった。

2時間強はそう驚くような長尺ではないけれど(なんせ、ぼくは「七人の侍」だって「セデック・バレ」だってまるっと観れたのだ。DVDとはいえ)体感としては4時間近いような。シーン自体はぱつぱつ切り替わりながら進んでゆく。なのに。

重いのは、単純に内容だとおもう。

 

でもそこはなんとなくわかるような気がした。

 

光をあててうまれる陰翳、あるいは影の落ちた場所から見上げた明るさ、そういう対比が背骨になっていて、前編はとくに桐山くんの生い立ち、現在地を「家族」「他人」……うーん、もうすこし正確にいえば「家族のような他人」と「他人のような家族」の縦糸横糸で編んでゆくさまを見せることに重心が置かれていたように、ぼくは感じた(もちろんそこは原作でも描かれている部分だが、比重の問題として)。

 

 

なんてまじめに書いたものの、上映中のぼくは「わー!久保王将が封じ手開封してるー!」「幸田―桐山戦のとなりは佐々木大―高野智戦ですか……!」「門倉先生が新人戦ベスト8だー!ていうか門倉―二海堂戦だ、たーのしーい!」「田中誠指導棋士がお好み対局だよ……六段だよ……!」「タナトラ先生の立会と梶浦名記録係って、なんとなく既視感があるようなないような…」とかに目が釘づけになっていたことも否定できない。

 

 

ほぼほぼ原作に忠実なつくりではあるけれど、いくつか時系列を変更している箇所もあり、それでゆがみが出た気がするところも(勘違いだったらごめんなさい)。

 

 

たとえば、桐山くんが幸田家を出るのはプロになった中学3年生のとき。原作ではすでにその数年前に香子と歩は幸田(師匠であり父親)によって奨励会を退会させられている。映画版ではその通告を受けたその日に桐山くんが「(家を出てくという香子に対し)ぼくが出ていくよ」と言う。その前段に「零に勝てないならお前たちは無理だ。初段になればこれ以上の相手がごろごろいるんだぞ(大意)」ということばが幸田から2人に告げられる。しかしこれって、ちょっとおかしいのではないか。

ここから2人は奨励会級位者だということがわかる(おそらく香子が1級)。原作だとそのころは桐山くんもまだ奨励会員だから筋は通るけれど、この映画版だと、いわば「プロの四段に勝てない現状で、奨励会初段にはそれより強いのがごろごろいる」という理屈の通らない話になってしまう。もしかするとそのあいだにタイムラグがあったのかもしれないけれど、ぼくは映像で観たかぎりでいうとそれがひとつながりの時間軸におもえた(香子たち退会勧告される→香子激昂して盤駒など叩き割る→そのまま「出ていくわよ!」桐山「ぼくが出ていくよ」)。

うーん。

 

 

それから、マナーの話。

まず、ぼくの態度を明らかにすると、映画は創作物であり表現なので、なにも実際の将棋界に忠実である必要はない。むしろ、脚色、潤色や誇張、演出があってしかるべきだ。細部まで現実に即するのであればドキュメンタリーでいいじゃん、というスタンスである。

しかし、ひっかかったのは二点、3シーン。

まず冒頭、幸田―桐山戦の終局時、幸田「ああ…ないのか…負けました」に桐山はお辞儀をするだけ。これは原作でもそうなのだけれど、原作は漫画なので、コマとコマは必ずしも連続性を持っているわけではなくって、つまり描かれてはいないけれど桐山も「ありがとうございました」と言ったであろう、と読む解釈の余白が残っているわけです。

さらにこれは映画オリジナルだけれど松本―桐山戦もおなじく松本「負けました」、桐山「ハイ」。これらいずれも、子ども将棋大会とか、道場でのアマ同士では(それでもマナーに悖ることはまちがいないが)なくはない情景。映画だから、連続的な映像として見ているとき、正直「桐山くん、きみ、プロ棋士としてかなりそれサイコパスだけどだいじょうぶ?」っておもってしまったのはいなめない(仮に、「負けました」のあと一瞬でも別の映像がうつったりすれば、いったん流れを切れるので解消できるのではないかな、ともおもう)。

そしてもうひとつは新人戦決勝、桐山くんが飛車を打とうとしたとき、島田さんや二海堂のことばをおもいだして自重するシーン、手の中に飛車を握り込んで黙考するのだけど、これも反則とまではいえずとも初歩的なマナー違反(持ち駒は常に相手に見えるように)ではあるので。もちろん直前まで打とうとしていたわけで、相手の山崎五段もそれが飛車だってことは当然わかっているだろうけれど、演出上、やったらめったら長く持っていたので、気になってしまいました。

 

 

そういえば、新人戦決勝は、「昭和初期の名人戦かよ」みたいなシャビーシックな建物で、観客(?)も着飾った和服の姐さんや大企業の社長みたいなひとたち、将棋というよりは「カイジ」とか「哲也」あるいは「嘘喰い」の世界、みたいなかんじでした。なにより椅子対局だし。とはいえ(逆の意味でですが)将棋らしくない対局場の設定や演出は現実にドワンゴがいろいろ試行しているので死ぬほど違和感があったわけじゃないこと、プラス原作では関西将棋会館が舞台だったけど、これ仮に現地を借りて撮影しても、将棋に興味ない層からすると東京の将棋会館と一緒じゃーん、って話になるので、それはそれでありだとはおもう。ただ、新人戦(モデルは「新人王戦」)って作中での描かれ方もふくめ公式戦なので、非公式戦、お好み対局とはちがう。建物(洋館)的に仕方ないかもしれない、しかし、そこで椅子対局はちょびっと微妙だったかなあ…とは。囲碁かよ!チェスかよ!(※将棋でも公式戦以外で椅子対局の前例はありますし、女流棋戦ではたとえばマイナビ女子オープン予選が現在もそうです)

 

 

それとラストの獅子王戦、これは番勝負制じゃなくなったのか、すっとばして(原作では)第4局までいったのかちょっと判じえなかったけれど、桐山くんがやっぱりちょっと演出過多におもいました(いや、すごいわかる、すごいわかるんだけど)。だって、まだ終局してないのに大盤解説担当、しかも大先輩の柳原棋匠をほっぽりだしてドタドタ走ってって(もしかしたらまだ対局中かもしれない)対局場に雪崩れこむの。結果的には終局してたのだけれど、まあ、ふつう、いくら17歳といえどプロの五段は絶対やらない(やれない)ことだから、というかそもそもそのまえに島田側の妙手を発見した桐山くんが「ぼくは~」「(島田八段の駒は)死んでない~」と絶叫するのも、現実でもしあるとすれば、うーん、たとえば「私はまだ島田先生の駒は死んでいないようにおもいます」くらいがふつうではないかしら。むろん、先述のとおり、演出でいいんです。そんなこというとそもそも二海堂の「桐山ー!!」もテレビ解説としてありえないし、なにしろ録画の放送なのでそれをそのまま放映していることもふくめ二重におかしいからね。とはいえ、棋界最高峰のタイトル戦の雌雄が決する場所に、いくら同業者、プロ棋士といっても(その会場内を)ドタドタ走って駆けつけるのは、うん、ない。これはマナーよりモラルというか、そういう範囲のことかもしれません(映像なのでよけい増幅されてるとはおもいます)。

 

 

二海堂は措いておきましょう。

あれは原作でもツッコミどころ満載すぎます。

 

 

あ、よかったな、っておもうのは、原作では桐山くんと川本家(あかりさん)との出会いのもととなった「悪い先輩に(未成年なのに)飲まされ潰された事件」、あれがうまいこと収束してましたね。映画ではあくまで、その日、師匠で育ての親である幸田に勝った罪悪感にかられた桐山くんが勝手に酒をあおったことになってます(そしてそれがささやかな伏線としても働いている)。原作だと、うがってみれば「将棋のプロ棋士にはそういう悪い先輩もいるの?」って(もしかしたら)おもう方もいらっしゃるかもしれませんけれど、映画版ではそこは完全セーフです。ここは連盟ファンのキクチ、うれしき。

逆に「うーむ」だったのは、原作ではおそらく人気のない夜の路上で後藤九段が桐山くんを殴ったのが、まさかの元旦の朝か昼、大勢が行きかう神社だったところで。「将棋のプロ棋士にはそういう乱暴な先輩もいるの?」って。まあ、構成上、言うても詮無きことかな(後藤個人に関してはそののち名誉回復ターン?的なものがちゃんといいタイミングでくるのですが、イメージとして)。

 

 

さて。

つらつら書き連ねてきましたが、そういうところでいったん区切りましょうか。

またDVDなどで再度視聴すれば気がつくところもあるかもしれない。し、気づきたいとおもう。後編はどうやらオリジナルの展開らしく(原作が連載中なのでそりゃそうなんですが)、ちょびっとばかり、予告で目にしたそれが個人的には「あーん」というかんじだったので、観ないかもしれません。観るかもしれません。どうしたものかね。

 

 

それでは、長くなったけれど、「3月のライオン」前編を観て、キクチミョンサこと菊地明史がおもった第一印象をお届けしました。

またね。