ドッグイヤー
そのリハスタには柴犬がいた。
賢明なる読者諸兄に対して、こしあんのうえにつぶあんを重ねるような神をも恐れぬ所業かとはおもうが、いちおう説明すると、リハスタとは「リハーサルスタジオ」、つまりバンドマンみたいなものが練習みたいなことをする場所である。
もう一度繰り返す。
そのリハスタには、なぜか柴犬がいた。
これが百歩譲って最寄駅から車で30分かかる老夫婦だけでやっている中華料理屋、なんてシチュエーションであればまだわかる。実質は32分ぶんくらいなわけですね。ええい、よけいなことを言った。
キクチは、そうとうな犬猫アレルギーである。
このご時世、犬や猫の写真をtwitterやinstagramにアップすれば、まあたいてい、現世に友だちのいないひとでも5や10のイイネ的なものがもらえるわけで、富良野は寒いわけで、お前が好きなわけで…まちがえました、ひっこんでなさいわたしのなかの秀隆と洋次郎。
しかし、ふだん使っているもろもろのスタジオがちょうど空いていなく、はじめて予約したその店に、その受付兼休憩スペースに、当たり前のように犬がいるなぞとはつゆほどにもおもわない。だって、リハスタだぜ?ギターをギューンと鳴らしたり、ドラムをスッタカターンと響かせたり、ヴォーカルがウォウウォウウォウ叫ぶ部屋のことなんだぜ?リハスタって。
とまれ、あとは典型的な「犬アレルギーのおっさんがポケットティッシュを瞬殺してゆく」業を披露する3時間となった。
いや、あのね、飲食店に「喫煙マーク」貼らせるなら、とりあえずすべてのお店に「犬とか猫とかいますマーク」を掲示させてほしいのです。これはひどい片手落ちだ。だって、アレルギーは、健康への害悪は聖人君子然ぶって措くとして、そもそも好悪の域を超える。無理なんだ。
実際わたしも犬や猫がすきである。すっごいすきといっても過言ではない。ただし、現存在として物理的におなじ空間に共生できないだけで。
遠くから眺めていたいだけなんだよう、と涙目シパシパ、鼻水ジュルジュルになりながら、キクチはおもった。
そして、首脳会談の結果、このスタジオ(すごく安くてアクセスもよい。おまけに水のペットボトルまでサービスでくれた)は二度と使わない、という結論に至った。
相棒にとっては、高校の軽音部もかくや、という、圧倒的薄っぺらすぎる防音がその最大の要因だったかもしれないが、わたしにとっては犬だ。犬だった。まさかこの年齢になって犬を理由にリハスタに見切りをつけるとはおもわなんだ。時間は速い。過ぎたことを忘れるくらい速い。
そんなわけで、われわれはひとつスタジオを喪ったわけだが、浮かむ瀬はがんばります。
つぎのライブは6月30日(金)、大阪は江坂・パインファームにて60分のロングセット。
おそらくのセットは以下9曲(順不同)であろうかしら。
並び替えて「ぼくのかんがえるさいきょうの~」を考えたりすると、たのしいかもね。
・トロンプルイユ
・血と水
・静かに暮らすんだ
・忘れたころにかえってくるよ
・海鳴り
・四月になれば彼女は
・どうにかなる日々
・静脈