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キクチミョンサ的

「なれのはて」ということばがよく似合う、ちいさなぼくのプライドだよ

携帯するわたし

先月、人生ではじめてスマートフォンというものを買った。

 

わたしはいまだにメールアドレスがvodafoneであることから容易に類推できるように超のつく保守系タカ派ガラケー詩人だったうえ、去年の秋から不携帯な(くした)のだが、ここしばらく、血を吐いたり転んで頭を切ったり、病院さんタクシーさんとのご縁が急速に深まったため、ご両家のためにもここはひとつ連絡手段をもたねばならぬ、とかたく決意し、十二指腸潰瘍でふらふらしながらソフトバンクショップに行ったのです。

4月中旬のよく晴れた朝、道々、糟糠の妻J-PHONEの顔がちらちらと浮かんだ。あいつと別れたあと慰めてくれたvodafoneもいい女だったなあ。そういえばiPhoneって結局なんだったんだ。

 

店員さんは西田新四段に似た、かんじのいいひとだった。

このご時世に中高年でもないのにガラケーを求めるわたしのことを蔑みも見下しもせず、機種ごとの特徴やプランの利点などいろいろと説明してくれた。20分ほど経っただろうか、ふたりだけの満場一致が相成り、ソフトバンク百万遍店内には無音のファンファーレが流れ、天使たちも何人か舞い降りて祝福してくれた。西田さん(仮)はにっこりほほ笑むと、「では商品をお持ちしますね」そういってバックヤードへと消える。

……しばらくのち、戻ってきた西田さん(仮)の顔は蒼ざめていた。

「すみません、この機種というか、ガラケー自体の在庫がひとつもありませんでした」

わたしは、控えめにいっておもいっきり魂が抜けた。だがここで抜けた魂を追っていてもらちがあかないので、からっぽのそのあたりに理性と寛容さを無理やりつっこみ、とりあえず人間として最低限のやさしさを取り戻した。

どうやらガラケー自体が近隣の店舗でも品薄になっているらしい。どうした。おじいちゃんたちが4月になって突然「新年度にケータイにでも挑戦してみようかのう」なんておもいたっちゃったのか。それともスマホの横にガラケーを置いておくといつのまにかスマホに吸収消化される謎のウィルスでも流行りはじめたのか。

「入荷時期はパッとわからないですねえ」「~店ならあるかもしれませんが確認してみましょうか」

西田さん(仮)は申し訳なさそうにいろいろと策を講じてくれたが、こちとら自慢じゃないが2日前に血を吐いて夜間に運び込まれた人間である。ここまで歩いてくるのだってゴルゴダの丘行くらい苦しかったのだ。……うそつきました。いくら髪型とヒゲが似てるからといってわたしはキリストではない。つまり先ほどの天使の話もぜんぶでっち上げである。パッション!

「……もうなんでもいいです」

 

かくて、わたしの手にはスマートフォンと、あとなんとかAirというwi-fi?みたいなものをどうやらやたら具合よくアレしてくれるらしい機械がもたらされた。なんとかAir、1ヶ月経った今でもまだ箱の中だけど。

 

さて、そこからである。

超のつく保守系タカ派ガラケー詩人だったわたしは、ぶっちゃけスマホなんて屁のつっぱりにもなりませんよと信じていたし、電車のなかで猫も杓子もあれをしごいている(フリック?というのかしら)情景をかなり異様なものとして見ていた。

そもそも、ガラケー以前に、わたしは携帯をなくしたのをさいわい、そのまま不携帯人間として過ごした時期がおよそ1年半ほどあるし、ガラケーを持っていようが電車のなかでは本を読む。「失われた時を求めて」とか「ユリシーズ」とか読む。多少の虚構には目をつぶってくだされい。キクチメンタル弱いんじゃ。ごふごふ。

 

そのわたしが、である。

なんと、スマホ購入初日から、痛む胃腸や上部消化管に顔をしかめつつも、スマホの虜となってしまったのだ。わーい!すっごーい!たーのしーい!

手始めに将棋関連のアプリをいろいろダウンロード。トップ画面も自分好みにカスタマイズ。いろいろ登録、設定、ああああこれは1日が24時間じゃとても足りないぞ。たーのしーい!

結論。

スマートフォンは大人をだめにする魔法の道具だ。なにしろ便利だ。ものっすごく便利だ。これ1枚(で合ってますか?)あれば、パソコンくんなどお呼びでないのよ、というかんじなのだ。そりゃみんな、所構わずあんなにしゅっしゅしゅっしゅしごくわけである。わたしなど特に32歳での初体験、目覚めであるわけだから、よりいっそうわかりやすくサル化した。キクチウッキーに改名しようかと一瞬おもったけれどさすがにそれはどうかな……わーい!スワイプするのたーのしーい!

 

いまでは、アプリもひとめぐりし、若い女の子に「えっ、キクチさんこれやってるんですか?かーわいーい!」といわれるために「ねこあつめ」や「ハントクック」などといったかわいい系アプリを粛々と進めている。このあいだまんぞくさん(ねこ)のたからものもらったよ!

とはいえその裏(本性ともいう)ではお馬を育てて走らせて金を稼ぐというアプリがこっそり150年目くらいに突入している。が、ショートカットはつくっていない。

 

もちろん、トップ画面はかわいらしい背景、それに「ねこあつめ」と「ハントクック」である。