「踊る死体」
なんとなく
1日に1分くらい
きみのことを考えている
思い出さない日はないけれど
10分は言い過ぎだ
ベイビーフェイスもヒールもトゥ、からステップ
すっ飛ばされた夜にたくさんの嘘になりきれなかったことば
踊り続ける死体のような記憶たち
涙はうつくしくも醜くもなく、ただ無機質にあたたかいものです
ひとくち分だけ余した缶ビールと
ぼくの右手はつかの間同盟を結んだ
真っ暗な遊歩道、渡りきるまでは離れないよって
突っ立ったまま事切れた電灯の下、風がふいている
ミラノの夏、パリの秋、そしてベイジンの冬
きみのことを考えるようになったのはきっと
忘れてしまったからではなくて
幕間にふっと光が消える一瞬を
もう怖がらなくていいと腑に落ちたのだ
ワントゥ、よれよれのダンス
二の腕を拾って指先で口づける
爪痕は残っているからもうあまり強くは握らない
不完全な日々の連続のなか、血の流れる音だけ聞いていたい
気がつけばぼくは東京の片隅に佇んでいて
この街がどう滅びてゆくのか、考えていた
きみのことよりもすこし長く
夜をすっ飛ばして、ことばをすっ飛ばして
ディレイド、もつれた足が進む
ぼくもまた踊り続ける死体のひとつとして
涙はうつくしくも醜くもなく、ただ無機質にあたたかいものです
ただ、誰かの頬をあたためるためのものです